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なんとなく書き散らし。
本当、何に萌えたのか自分でもわからないので日記に投下です。

めっちゃ短いです、うふふ。
とある売れない芸人の会話ってテーマで。

読んでくださる方はタイトルクリック。

***


「僕たちがつくる小宇宙」


 ネタを書く時はシャーペンでもボールペンでもなく鉛筆が最も望ましい。
 しかもうんと柔らかい6Bだ。芯が柔らかいと頭も柔らかくなるように感じるのは錯覚だろう。けれどそんなイージーな暗示で鉛筆は走るように動きまわる。

「できた」

 その言葉とともに僕は手に持っていた鉛筆を傍らに投げ捨てた。自分の手に今文字を埋めたばかりのコピー用紙を掲げた。
 通販で買ったコタツは狭い。1平方メートルも無い。けれど僕たち、売れない新人お笑い芸人の二人が納まるにはなんだか丁度いい。

「どれ?読んでもいいか?」
「もちろん。今回も我ながら天才的だ」

 僕は紙を男に手渡した。
 ネタを書くのは僕の仕事だ。
 普通ネタなんてものは一人で考えるものかもしれない。でも僕はコイツが前にいるときが一番閃く。トイレにいる時でもないし、自転車こいでいる時でも寝る前でもない。コイツが俺の発想力を刺激する。だから、コイツもそれを知っていて僕がネタを書く間テレビも観ずにじっとそこに座っていてくれる。
 男は僕が書いたネタを真剣に目で追った。時々きらりと目が光る。この男はプッと噴き出す事もしないし、腹を抱えて笑う事もしない。けれど何か面白いことがあった時は目がいつもより輝いたりする。男が何度目をキラキラさせるかで僕も自分のネタがどれだけ面白いかが分かるというものだ。
 男はふぅっと小さく呼吸をすると、紙をコタツの上に置いた。
 視線がかち合う。男は真面目な顔をしたまま、言った。

「すごい、これは天才的なコントだ」
「だろう?」

 僕も至極真面目な顔で返した。
 男は感想を続ける。

「5行目のノリツッコミは今までになく秀逸だ。あと、9行目のセリフの切れ味は殺人的におもしろい」
「うんそうだろう、そうだろう」
「極め付けが最後のオチだ。こんなに近未来的なオチは初めてだな」
「そうなんだよ、それ!近未来的!」
「まさしくそんな感じだな。近未来的」
「うん、近未来的」

 二人で顔をあわせたままにやりと笑った。
 近未来的。
 なんて魅惑的で素敵な言葉。
 僕は口元をあげたまま、言葉を続けた。

「そうだな、でもまた今回のネタも近未来的すぎて現代の観客にはついていけないかもしれないな」
「そうだな、近未来的すぎるからな。それも仕方ないだろう」
「まるで滑っているような空気になるんだような。近未来的すぎて」
「滑っているのとは訳が違うぞ。お前が作ったネタは宇宙みたいなものだ。まだ解明されていないところが多いってことだ」
「宇宙か。いいな、その表現」
「未解明なものはみんなの興味をひくんだ。むしろアートだ。お前のネタはアートだ」
「アートか、それもそうかもな」
「そうなんだよ」
「……そうか」

 沈黙がおりて、無性に笑いたい衝動に駆られた。
 馬鹿みたいに誉めあっているこの瞬間がどのコントよりも馬鹿げていて面白いと思うのは僕だけだろうか。それともこれも近未来的すぎて誰の笑いもとれないのだろうか。
 とにかく。
 僕はコタツの上に置いてあったビールに手を伸ばした。黄金色に輝く缶が二つ。まる僕と男を称えるトロフィーのようだ。

「とりあえず飲もうぜ」

 男に缶を一つ手渡す。その後、自分の分を手元で開けるとプシュッと小気味いい音がした。

「僕たちの小宇宙に乾杯」
「乾杯」

 コツンと鳴らすと、お互いにグイッと呷った。

 こいつだけだったらな、とよく思う。
 僕とこいつ、世界に二人しか生きていなかったらよかったなぁ、と思う。

「……そうしたら、僕のネタは大爆笑だ」
「うん?」

 僕の呟きに男が顔をあげた。
 僕は何も言葉にしないで、またビールを呷った。
 
 ああ、世の中は世知辛い。
 理解なんぞしてもらわなくてもいいけれど。

 いいのだけれど、それでも。
 
 それでも寂しいときもある。

「僕、お前がここにいてくれて本当によかった」

 僕がそう言うと、男は赤い顔で笑った。

「俺もだ」

 そう。

 それでも僕は一人じゃない。
 世界を敵にしてたった一人で戦っているわけじゃない。

 僕とこいつがいるだけで、僕は誰にでも勝てる気がするんだ。


 例えネタが近未来的過ぎても。
 世の中がいつか追いついてくれればいいさ。

 それまでこいつと僕でここでビールでも飲んで待ってるんだ。



おわり




***

何に萌えたのか分からないですが、ある芸人二人の会話。
何が怖いって本当にこんな会話してそうな芸人がいそうで怖いって感じですよ。
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